AI導入事例
ある会員制サービス(会員約2万人・稼働10年超)の基幹システム。状態を列挙すると、こうなります。
- 言語は Java 1.7(2011年リリース・サポート終了)
- 画面は JSF+PrimeFaces(衰退した画面技術)
- 認証ライブラリは開発終了(EOL)のまま稼働
- パスワードは SHA-1・ソルトなし(現代の基準では危険)
- ドキュメントなし。基盤コードの最終更新は5年前。当時の開発者は不在
従来のやり方で見積もれば「解読に数ヶ月、総額数千万円・年単位」の案件です。多くの企業がこの見積もりの前で立ち止まり、システムは塩漬けになります。
最初の数日で、AIが全量を棚卸しした。
着手してまずやったのは、書き直すことではなく読むことです。AIエージェント(Claude Code)に全リポジトリと本番データベースを渡し、数日で次が判明しました。実データ約67万行・35テーブルの構造と実運用規模。正規化されないまま増築された設計負債。IPアドレス直書きや平文パスワードの全数。そして「誰も仕様を知らない」と言われていた中核の判定ロジックの正体——実はマスタテーブル駆動のシンプルな構造で、「解読困難」という人間の見立てのほうが思い込みでした。
従来見積もりの大半を占めるのは、実装ではなく「解読」のコストです。人間の数百倍の速度でコードを読めるAIエージェントは、まずここを崩します。
戦略はAIが提案し、人間が決めた。
AIはDBスキーマの全面正規化案(教科書的な理想形)も提示しましたが、採用しませんでした。データ移行は刷新プロジェクト最大のリスク要因だからです。人間が選んだのは「DBスキーマは1テーブルも変えず、アプリケーション層だけを最新構成(Java 21/Spring Boot 3)に刷新する」という戦略。データ移行がないため並行検証が容易で、いつでも旧系に切り戻せます。
実装のハイライトは3つ。
- 認証の無停止移行:SHA-1のパスワードを、各会員のログイン時に安全な方式(bcrypt)へ自動で再ハッシュ。誰にも気づかれないまま順次安全になっていく
- 旧画面の忠実再現:本番画面の実測値(色・ピクセル単位)で新画面を作り込み、利用者の学習コスト・問い合わせ増をゼロに
- 実データでの全機能検証:本番相当データでE2E検証してから公開。AIの成果物は必ず実物で検証する
結果、会員向け全機能+管理画面18種の実装・検証まで、実働約1週間。20年分の業務ロジックと蓄積データは、1件も捨てていません。開発コストが桁で下がった今、「SaaSに乗り換えて業務を合わせる」だけが脱レガシーではなく、業務ロジックを捨てないフル刷新が現実的な選択肢に戻ってきました。
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- 実録②:既存コード0行変更で、基幹系に新しい入口を作る
- 実録③:1ヶ月級の構成検討を、プロトタイプ2日+実測で
※本記事の数値は2026年7月末時点の実測値です。開発成果はシステムの状態・要件により異なります。