AI導入事例
「アプリは動いている。ただ、通知だけが何年も届いていない」——そんな相談から始まりました。会員制のBtoCサービス向けAndroidアプリ。ストアには公開され、起動もするのに、お知らせのプッシュ通知だけが、いつの間にか一通も飛ばなくなっていたのです。今回は、作った人も資料もいない「触れないモバイルアプリ」を、会員資産と署名鍵を一切引き継いだままAIで作り直した記録です。
落ちないまま、大事な機能だけが静かに止まっているアプリです。
「動いてはいる」の下で、通知は数年前に止まっていた。
このアプリの正体は、ネイティブの殻の中で既存のWebサービスを表示するWebViewラッパー+プッシュ通知、という構成でした。画面は既存Web資産の使い回しなので生きている。問題は通知です。送信の仕組みが旧世代の配信基盤に依存しており、その基盤が提供終了になった時点で、経路そのものが消滅していました。データベースには新方式のトークンを保存する列だけが追加されていて、そこへ何も書き込まれない——配線が途中で途切れたまま放置されていたのです。
「触れない」の中身は、8割が"作り直しの怖さ"だった。
実際に踏んだ壁は、コードの難しさより「引き継ぎの怖さ」でした。とくにAndroidは、ひとつ間違えると既存ユーザーが更新できない別アプリになってしまいます。
残すもの/作り直すものを、はっきり分けた。
やることは「全部を新しくする」ではありません。活かせる資産はそのまま活かす。分解すると、こうなります。
| 項目 | これまで | 作り直し後 |
|---|---|---|
| 通知の経路 | 旧世代の配信基盤 (提供終了・送れない) | 現行の配信基盤(FCM)に載せ替え |
| アプリの殻 | 世代の古いネイティブ実装 | 最新のネイティブ実装で再生成 |
| 画面(中身) | 既存Webサービスを表示 | そのまま継続(会員資産を維持) |
| 署名鍵 | 2016年発行 | 同一の鍵を継承(更新として配信) |
| 会員・端末データ | 約14,000端末が登録済み | そのまま引き継ぎ |
再構築そのものはAIエージェントで一気に進めました。作り直したアプリは、仮想端末で通知トークンの取得 → サーバへの登録 → 実際に通知が届くまでの一連を最後まで通し、往復が成立することを確認しています。出力は、そのまま配布できる署名済みの形式です。
動かないと言われたアプリの多くは、全損ではありません。止まっている一部の配線と、引き継ぐべき鍵さえ押さえれば、現物を活かしたまま現代の基盤へ戻せます。iOS編(実録⑦)では、会員の多数を占めるもう一方のプラットフォームと、両OS共通の"古いサーバのまま通知を現代化した"話を書きます。
※本記事は実案件をもとに、企業・サービスを特定できない範囲で一般化して記述しています。数値は2026年8月時点の実測に基づく概数です。所要期間・作業内容はアプリの構成により異なります。